本を読む本――あるいは「初めての読書」のために

読書の重要性は誰もが知っている。だがその重要性は、現代では強迫神経症のような形で喧伝されている。読書をしない人は豊かな人生を送れない。だとすれば、これまで本と無縁だったり、楽しみのためだけに本を読んできた人はどうすればいいのか。

本書こそ、その最高の導入となるだろう。

ジャンル:読書
難易度 ★★★ 
実用性 ★★★★★
満足度 ★★★★★

本を読む本 (講談社学術文庫)

本を読む本 (講談社学術文庫)


本書は勝間和代や原尻淳一によって、折にふれてプッシュされ続けてきた。本屋の関連フェアで平積みになっているのを見たことがある人もいるだろう。にも関わらず、間違いなく読まれて来なかった一冊である。講談社学術文庫であり翻訳という見た目は高いハードルになっているからだ。訳者の外山滋比古『思考の整理学』は「東大、京大で一番読まれている本」という触れ込みでベストセラーになっているというのに。

実際、その難易度は低いわけではない。しかしその難しい見た目は内容の充実と構成の整然さを意味している。本書には、世に跋扈している読書術というもののほとんどのエッセンスが詰まっている。ほとんど、これだけ読んでいればいいといった趣だ。ではそれはどのような内容か。本書は読書に四つのレベルを設けている。初級読書、点検読書、分析読書、シントピカル読書がそれだ。

初級読書はいわゆる素朴な読書だ。多くの人が無意識に行っているものだと言ってよい。もちろん、これに飽きたらぬからこそ様々な読書術が提示されてきた。

点検読書は、あるターゲットを定めた上で、それを探すように読書することだ。いわゆる「速読」の中でも、「拾い読み」に属するものである。これはとても有効なことで、あるレベルにおいては、本は全てを読まなくてもよいのである。このことで、人々は読書の重圧から解放される。

分析読書は、精読のことだ。そこで書き手が何を言いたいのかを、本の内部の情報だけから読み切ることを意味する。これが必要なのは、書き手を批判するときのためだ。

シントピカル読書とは、読書の最終段階だ。一冊の本の内部に留まらず、様々な本を比較することで、より一般的な命題について考えるための高度な読書である。

重要なのは、これらの読書が段階的であるということだ。点検は分析に寄与し、分析はシントピカルを支える。しかし逆ではないのである。従って、逆説的に、レベル2であるはずの点検読書がいかに重要かを示している。


このような書評はありふれているが、そこに何か付け足すとすれば、本書に通底する思想が、読むこと=書くことだという指摘ができるだろう。優秀な読みとは常に対話的であり、それは自分からの発信を含んでいる。本書は、これから書こうと思っている多くの人たちにとっても必読だろう。