受験参考書総論1――薄さの効用
基本受験参考書を選択する際の極意は「薄い物を選ぶ」に限る。
これはニアイコール「読みやすいものを選ぶ」でもあるのだが、読み易さは人によって千差万別なのでやはり「薄さ」が重要だ。読み切るという経験には、定着率的にも、また気分的にも大きな効用がある。
また、薄いということには一般に考えられている以上の意義がある。一つは薄くするからにはエッセンスを詰め込まなければならない。必然的に内容の重要性が高まる。また、薄い本を成立させるためにはこと受験科目のものにおいては体系性が重要になる。例えば「社会学の教科書」などといった手合いのものはしばしば先端分野がつまみ食い的にいくつか取り上げられるということになりがちだ。これはギデンズの『社会学』が大変な厚さであることからも明らかな通り、体系を示すことそれ自体が膨大な作業となる学問群だからだ。しかし、受験参考書にそういう韜晦は許されない。受験参考書で薄いからには、ある分野に問題を限っているか(例えば数学における「確率」「数列」「微積分」のように)、全体の簡潔な見取り図になっているかの二通りである必要がある。それは「取扱説明書」のようなものだ。可能であれば僕も「現代文の取扱説明書」のような感じで参考書を書いてみたいところだ。
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さてそういうことで僕の考える基本参考書を下記に書いていこうと思う。
*当方のスペックは文系で、英国日本史が偏差値75くらい、数学はお通夜、公民は取ってない(がセンターだったら80点は取れる)、生物もお通夜といった具合である。
†現代文
現代文の教科書は、教養がついた大人が見る分にはまさに名文の宝庫なのだが、体系性の乏しさゆえに基本書としてはふさわしくない。教科書は数学における公式のようなものを与えてくれないのである。もちろん現代文に公式はない。あるのは方法と教養である。でも教養は無限に展開していくものなので、基本書の対象は方法論となる。
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というわけで現代文にはこれがお薦めだ。なんといっても薄い。最初は語りかける口調だが、だんだんと新書的な口調になっていくグラデーションもよい。偏差値50以下の人はもちろん、たまに60を記録したりするが、なんとなく感覚で問題を解いているという人にもお薦めできるだろう。
これが簡単すぎるという手合いには、
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†古文
古文は古典文法と古典常識の両面戦法で行かなければならないという点で暗記科目だ。
とりわけ助動詞の活用は最初に暗記しなければならない。古典の勉強は助動詞の暗記から始まる。これは力押しするしかない。従ってこのレベルでは参考書など関係ない。学校の教科書の頭か後ろにある表を暗唱せよ。るらるすさすしむずじむむずましまほし、きけりつぬたりけむたし、べしらむらしなりめりまじ、こんな感じで僕は覚えた。
それを踏まえると基本書は
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†漢文
漢文は、
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これを全部読んでもよいのだが、何より素晴らしいのは巻末の「早覚え速答法・総集編」だ。著者が作った4pほどのオリジナル漢文章を読み下しているだけでセンター試験では満点が取れる。それどころかほとんどの私大・国立二次試験にも対応できる。全く素晴らしい。これ一冊と過去問で漢文は全てが片付く。
†数学
僕は数学がお通夜である。なにせ平方完成すら忘却していたのだ。従ってここで書くことは完全にもし僕がやり直すとしたらという観点で書かれている。というかやり直している。
それで見たところ、
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分野別では細野本や坂田本がよい。特に坂田の「面白いほどわかる本」は実際にとても分かりやすく、未履修だった「数?の微分積分」を読んでみたところ、一つずつ理解することができた。とはいえこの項目はさすがに印象論にとどまるのでむしろ情報求む、といったところだ。
ちなみに現役時代は
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†英語
英語は既に取り上げたこともある、
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英文法は、
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個人的には代ゼミ時代の今井の英文法教室が簡潔で好みだったが、東進版が出たのでこちらに差し替える。とりあえず一冊という点で仲本を一番上に置いてみた。下二つは二分冊だが語り口が柔らかく勉強になる。難易度的には一応、仲本<<今井<<山口、といったところだがあまり気にしなくてよい。本屋で比較するのがいいだろう。一読したら『Forest』か『Next Stage』ともに再度併読して固めれば基本は終了となる。
†英単語
英単語帳に関しては、
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とはいえ。
僕はそれで偏差値75に乗ったし、その劇的な効用を知っているので「とにかくやれ!」と言いたくなるのだが、それでは「薄さ」というコンセプトに反するので、それに沿ったものを選出してみた。すると、
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これが圧倒的によい。なんといっても覚える数が600と少なく(普通は4000も5000も覚えさせようとしてくる)、覚えさせる意味も大体一つに絞りこまれており簡潔である。しかも、もし異なった意味で出題された場合の、別な意味のイメージ的な発想法も書きこまれているのがよい。実際に読んでみたが解説が頭に染み渡ってくる。著者は東大に必要な単語はこれだけだ!(誇張)とほとんど言っている。実際近年の東大の傾向を見ているとそれには頷けるのだが、足りないという批判も当然にある。しかし、「薄さ」という観点から見れば仮に東大レベルでなかったとしても素晴らしい書物であることに変わりはない。これで慣れたら『DUO3.0』『システム英単語』などに進めばよい。
†日本史
日本史は山川の『詳説日本史』がアルファにしてオメガであり、もし運悪く学校でこれが使われいなかった場合、教科担当を恨みながら書店で買うのがよいだろう。しかし、薄さという観点から見ると教科書は「やや厚い」。そこでお薦めは、
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これらである。ポケットサイズの文庫二冊で、縄文時代から五五年体制の崩壊までを一気に辿ることができる。文字サイズも大きく、また入試過去問を分析しきったという著者がポイントを絞って赤字などで示してくれているため、もっとも負担が少ない。
他のお薦めは、
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これで足りないのならば石川の『日本史実況中継』などもよい。何がよいって音声CDがついていることである。全五冊で分厚く、読みやすいとはいえ「薄さ」の観点からはちょっと難があるが、CDでながら勉強するのは「薄い」勉強法でありお薦めできる。自転車を漕いでいるときなどにぜひ。
僕は菅野祐孝のラジオ講義(一問一答式)を毎日の登下校の際に自転車漕ぎながら聞いていたところ、偏差値が一ヶ月で75になった。だがこの教材はもう手に入らないようなので提案できない。残念である。何といってもカセットテープだったくらいだから……。
†世界史
世界史は取っていないので(!)いい本を提案できない。誰か教えてくれ。とりあえず手元には『青木世界史Bの実況中継』と『荒巻の世界史の見取り図』があるが、読み易さでは前者の勝ち。53歳で東大に入り直した平岩なんたらとかいうお医者さんは後者をお薦めしていた。(この人は理?に入った後一年働いて理?に入りなおし医者になって、最近文?を受けて一回目で失敗して初めて浪人しもう一年で文?に受かったという、大学は東大しか受けたことがない何とも嫌味な人であるが、それなりに参考になることを言っていた。)
†公民
分からない。
思想が好きだった僕は何もしなくても倫理は9割取れてしまった。他方、現代社会は勉強したのに70点前後を彷徨った。政治経済は分からない。恐らくだが、中経出版から出ているセンター用の「面白いほどわかる本」シリーズが最適だと思われる。なぜかというと、センターを基準にやるべきことが体系化されているからだ。それを読んで過去問をやる・読むのが最短だろう。
†生物
僕にとって生物は鬼門である。高校生の頃はいつも赤点だった。「日本史は成績いいのになんでこれは出来ないの?同じ暗記物じゃん」とか言われたができないものはできなかった。センターを目指してもう勉強したが結局70点だった。ちなみに冗談で物理を受けて、適当にマークしたら70点だった。俺の努力は何だったのかと本気で思った。
当時、生物の得意だった友人が推奨していた参考書は、
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で、僕もこれで勉強した。悪くはなかったのだが、アマゾンレビューにもあるように超頻出のものに特化しており、またセンターなどの試験形式に沿っているわけでもないので、演習量が足りない僕は必然的に得点が伸びなかったと思う。
ちなみに別な同級生は、
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これを使っていた。センター形式なので少なくとも前出の本よりは効率がよかっただろう。彼はそのまま阪大の法学部に行ったので、恐らくセンター生物も高得点だったのだと思う。
†小論文
小論文は独学が難しい。
まともなものを書こうと思えば現代文の能力もまた必須である。というより、意見を発信するという点では現代文より難しく、昔の東大後期文系や慶応のSFCは、その特徴がダイレクトに現れたものだと考えられる。
そんな中でまず読むべき本は二冊。
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まずこちら。田村には「やさかた」の小論文版もありこれもとても薄くて素晴らしいのだが、あえてこちらを提案する。というのも「本音で語る」とあるようにこちらの方が入試小論文の本質を突いているからだ。内容も本当にぶっちゃけており、小論文で欲しい才能とは大学教授が飲み会で面白く話ができるような学生のことだ、とまで言ってしまっている。実際そういうものである。この書物自体、多様な視点に満ちた面白い書物であり、単なる手引きを超えた大きな参考になるだろう。
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読むだけ小論文 基礎編 改訂版 (大学受験ポケットシリーズ)
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もう一つ上げるとすればこれだ。小論文指導の歴史を変えた樋口裕一のYES/NO式型書き小論文である。(ちなみに上述した『読むだけ日本史』のシリーズ本でもある。)田村式が90年代パラダイムだとすれば、ゼロ年代パラダイムは樋口式である。このYESNO式は批判も多く、代表的なところでは先般没した駿台の小阪修平が青本で苦言を呈していた。
問題があることは確かだが、しかしやはりこの方法は有益であると感じる。
一つは文章には型があり、その型を知ることが最初の一歩だからだ。それを知らずに「面白い」ものを書こうとしても破綻したものが出来上がるだけだ。型の練習はやれ添削だ(といっても小論文は他人に読んでもらわなければ伸びない)やれ読書量だと言われがちだが、その練習が効率的に考えられてこなかったのが本書以前のパラダイムであり、型書きの練習にもっとも適しているのが本書である。
また、小論文が現代文と異なり「意見を発信する」という科目であることも注意点だ。現代文においてはむしろ注意深く「私見を排除する」ことが求められるが、小論文では逆をしなければならない。それは価値判断をするということであって、YES/NOとは最も根本的な価値判断の形である。旧帝大と早慶上智を除いた、小論文を課すほとんどの大学ではこの訓練だけで及第点が取れるだろう。(他方、小論文で差をつけようとすると非常に難しい。)
蛇足だが、現在の小論文は、ともに今はなき旧東大後期あるいは旧早大一文的な、人文科学的・発想的小論文と、慶応SFCを代表とする社会科学的・情報処理的小論文の二通りがある。小論文の比重が高い大学では、その特徴に応じた対策が必要だ。逆に、基礎段階ではそこまで考えることはむしろ害悪であって、文章を書くということに慣れるのがまず重要である。
もし文章を書くことそのものの基本が駄目だと思ったら、
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