勝間和代が速読を習った園善博の本。

園善博は速習セミナーの主催者だ。それ以外の情報がよく分からないが、勝間和代がそのセミナーで速読術(フォト・リーディング)を会得したと『無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法』で紹介したことから一気に世に知られるようになった。フォト・リーディングはと言えば「魔法」と言っても「体操」と言ってもいいのだが、とにかく独学で身に付けられるものではない。

ともあれ、鳴り物入りで速読本業界に登場した園の本がどのようなものか、そして、速読ではなく「速習法」と呼ぶその方法がいかなるものか、とりあえず出版順に三冊ほど読んでみた。

本がどんどん読める本 記憶が脳に定着する速習法! (講談社BIZ)

本がどんどん読める本 記憶が脳に定着する速習法! (講談社BIZ)

頭がよくなる魔法の速習法

頭がよくなる魔法の速習法

記憶によく効く!本の読み方ドリル

記憶によく効く!本の読み方ドリル


まず『どんどん読める本』だが、自分のセミナーで人がいかに成功しているかに紙面が大きく割かれている。評価は両義的だ。うさんくさいとも取れるし、逆に「こんなに事例があるのだ!」とのめり込む契機になるかもしれない。後者であれば幸せである。しかし内容は思いのほか実直である。脳科学的な復習効果の説明、エピソード記憶(イメージ)の効用、目的や競争相手の重要性、パラパラ読みのすすめなどが、いくつものエクササイズとともに提示される。すぐに実践可能だという点でとても優れている。また、素晴らしいのがメモを推奨しているところだ。最初は、本の内容を把握するために目次の書き写しを勧め、続けて本を何のために読むかなどのリマインド・ノートを紹介している。僕も急ぎのときは独自の方法でメモを取って読書をするが、それによって驚くほど早く読めるという実感を持っている。印象としては「料理の一手間」に近いが、劇的である。

続いて『魔法の速習法』。基本的には前著と同じ内容だが、こちらでは「既有知識」の重要性が強く推されている。これもまた実直だと思った。つまり、本が早く読めるのはそれに応じた知識量があるからだ、と言っているのだ。これは正しい。
僕が知るところ速読には1「右脳・無意識型」と2「眼筋・反射神経型」と3「左脳・知識型」の三要素がある。たいていはこれらのどれかか、あるいはどれかの組み合わせだ。しかし、いずれも一朝一夕には再現できないため、役立つ速読技法は、
結局のところ、これらをチートする手段を提供することになる。1であれば「本にのめり込む方法」つまり動機づけ、2であれば「集中する方法」つまりリラックスや呼吸法、3であれば「知識の増加」は無理なので知るべきことの限定=目的の明確化、といった具合だ。園はこれらの三つに股をかけており、かなり信用がおける。
また、気に入ったのは、「分けて読む」ことを勧めている点だ。つまり、一度に全部読まなくていい、ということだ。それどころか、同分野のいくつかの本を(荒っぽくてよいから)読むことを勧めている。これは前著の「復習の効用」の別側面である。差異を含んだ反復によって、記憶はより色濃いものとなるのである。
心理学的・脳科学的な裏付けを説明しているのも前著と同様だが、僕がいいと思ったのは受講者の例があることだ。これは前著冒頭にあった胡散臭い成功体験とは異なり、目標・環境・方法などのレポートになっており、単純に参考になる。
ただ、ビジネス書を意識しすぎて、妙にグラフや図、黒太字が多いのはかえって紙面を見にくくしており、気になる。
ワンポイント的だが、記憶には視覚イメージ、丸暗記には聴覚がよく、脳の短期記憶は四時間しかもたない(から振り返り=復習)が重要だというのも触れておくに足る。

そして『読み方ドリル』だが、既に明らかな通りまさに「差異と反復」といった勢いで微妙に差異のある本を三冊も読んでしまったものだから内容も頭に入り込んでくる。普通なら「同じ内容を何回も読ませやがって」と憤るところだが、まさにこの体験こそが著者の与えたかったものだ。ではこの本自体としてはどうかというと、三冊目ということでもっともデザインが優れており、内容も整理されている。また、タッチパネルの眼球トレーニングなどが何ページかおきにセッティングされており、これが結構燃える。ということで楽しくトレーニングまでさせられてしまい、これは脱帽であった。

他の書籍でもこれが出来なければ意味はないが、少なくとも市井の同類本の中ではもっとも優れたシリーズではないだろうか。